こんにちは!AeroEdgeのコーポレート本部 広報担当Tからお送りします。
今回は、昨年スタートした『AeroEdge温故知新』シリーズの第3回をお届けします。
前回は11月に、製造部Tさんの研削工程立ち上げについてご紹介しました。今ではスムーズに行われている研削工程も、立ち上げ当時はメーカー様や自治体様のご協力を頂きながら複数設備をはしごしていたのが印象的でした。
第3回では、ブレードの加工技術を確立した技術部Iさんのお話です。
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私はこれまでおよそ10年間にわたり、LEAP事業に携わってきました。その性質から微細な加工が難しいと言われるチタンアルミ材料を、精度や均一性を必要とする航空機エンジン部品のタービンブレードに量産加工することは、求められる繊細さや緻密さの水準が他の産業のものとはずいぶん異なります。世界中でまだ誰も実現できていないほどのチャレンジングな加工ですが、Safran(当時SNECMA)がこの加工のサプライヤー選定コンペをするという話を聞いたとき、エンジニアとしてこの難題に挑み、私たちの技術力を図りたいという気持ちが沸き上がったことを今でもよく覚えています。
Safranによるチタンアルミブレード加工のサプライヤー選定コンペは、そのビジネスの将来性に惹かれた各国の有力な金属加工メーカーが参加しました。私は世界を相手にこのコンペを勝ち抜くため、仲間のエンジニアと試行錯誤を繰り返し、要求事項を満たす試作品の加工に取り組みました。苦労の末に出来上がった加工品をSafranに提出しましたが、残念ながらサプライヤーとして選定されませんでした。自分たちの技術で世界最高のものを作ることを目指して無我夢中で取り組んだだけに、コンペが通らなかったことを聞いたときは本当に悔しい思いをしました。
悲嘆に暮れる私たちエンジニアの様子を見た現社長(当時は菊地歯車の航空宇宙事業部長)の森西さんは、再度Safranへ猛烈なアプローチを開始し、コンペ再参加のチャンスを持ち帰ってきてくれました。実は、世界中のどのメーカーも要求を完全に満たす試作品の提出ができていなかったことも分かり、まだ私たちにもサプライヤーに選定される可能性があったのです。森西さんが作ってくれたこのチャンスを逃したくない、自分たちでこの難易度の高い加工を実現したい、また、自分たちの加工技術が世界で通用することを証明したい、そういう思いから、選定獲得に向けた挑戦を再開しました。世界でまだ誰も実現できていないこともあり、顧客であるSafranから細かい指示があるわけではなく、またOJTがあるわけでもなく、経験者はもちろんいませんので、とにかく自分たちで考えて道を切り開くしかない。日々発生する問題に対してメンバーと協議を繰り返しているうちに、日を跨ぐことが何度もあり怒られることもありましたが、自分たちで決めた挑戦に対して妥協せずに世界を狙いたいという意思から弱音を吐くメンバーは誰もいませんでした。とても過酷な状況ではありましたが、エンジニアとしてこれほど充実した仕事は他にありませんでした。諦めずに挑み、再度試作品をSafranに提出し、そして供給メーカーとして指定されることが決まったのです。
しかし、サプライヤーに選定されてからが、本当に大変な道のりでした。試作品と同じ加工を継続すること自体も容易ではありませんが、これを大量生産するためには生産キャパシティを数十倍も増加させることが必要です。また、素材の形状も時々変更されるため、加工技術や加工設備の見直しも欠かせません。お客様に責任をもって安定的に量産品を納入し続けるために、作る製品の形は同じであっても、変化や課題に対して挑み続けなくてはなりません。失敗と成功の積み重ねと、従業員が一丸となって協力することで、量産と言えるモノづくり体制が整い、維持され、ここ数年で加工が軌道に乗ってきたと感じています。
成功の一例として、切削工程における自動クランプ治具*の開発が大きな成果でした。もともと熟練者で10分、新人では40分かかるクランプ作業でしたが、今では作業者の熟練度合いにかかわらず、装置のボタンを押せばだれであっても数十秒で完了する作業になりました。AeroEdgeは、安全と安定した職場環境の整備を積極的に進めていますが、その裏には作業の標準化と作業の自動化があります。AeroEdgeにこうした社風が定着したのは、LEAP事業のスタート当初から、技術部、製造部、その他関係する従業員全員が協力して、作業標準化や自動化に挑戦してきたからだと思います。
数々の苦難はありますが、何事にも挫けずにチャレンジして、トライアンドエラーで技術を蓄積してきた経験は、エンジニアとしてとても貴重で、今の量産につながっていると感じています。
*クランプ治具:ブレードを削るために固定する器具のこと
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AeroEdgeがサプライヤー選定のコンペで一度通過しなかったのは社内でも知る人はあまりいませんでした。また当時TiAlの加工に関して参照できるデータはなく、再選考が行われるほどTiAlブレ―ドの加工は類をみない難しさだったことが伺えます。
TiAlはその特性から常温では陶器のようにもろく、高い寸法精度を達成するために、どの設備を、どの工具を用いて、どのように削るかが大きな課題となります。ひたむきに挑戦を続ける風土はここから始まったのですね。
次はどんなAeroEdgeの姿が見えるのでしょうか。
では、また次回!